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高校野球 それぞれの夏

夏の風物詩。高校野球の季節がやってきた。
なかでも地方大会は、学校・地域の一大イベントとなる。

その日は、部員全員レギュラーの山間部の公立高校と現役メジャーリーガー2人を輩出しているスター軍団高校との対戦が組まれていた。
名もなき公立高校にとって、普段、練習試合すら組んでもらえない有名強豪校と試合ができるのである。
しかも公式戦。学校・地域は否応なしに盛り上がる。
「おらほの学校があの有名校と対戦するべ」となっては、地元住民総出の一大イベントとなる。

早めに着いた私は一塁公立高校側スタンドに座り、静かに試合の始まりを待つ。
まだ応援団は到着していないようだった。

球場の外を眺めていると、球場への一本道を近づいてくる1台の大型バスが視界に入る。
スクールカラーに塗られたピカピカの豪華リムジンバスである。遠目にもあの有名校のバスだとわかる。
近付いてくるにつれ、光り輝く〇〇高等学校硬式野球部の文字がハッキリと読み取れる。
「有名校のレギュラー組にもなるとVIP待遇なのか」と感心していたとき、ふとそのうしろに続くもう一台の小型バスが目に入った。
10人乗りくらいのレンタカーのマイクロバスである。

「学校関係者が後ろに付いてきているのかな」と思っていたが、到着したとき、衝撃の現実を目の当たりにした。

高級リムジンバスのすぐ後ろに停められたマイクロバスの「ビーッ」という音がして扉が開くと、公立高校のユニフォームを着た選手たちが降りてきた。
有名校の選手たちが歓声と拍手に迎えられ手ぶらで揚々と降りてくるすぐ後ろで、レンタカーのマイクロバスからは公立高校の選手たちが自分たちの道具の入った重い荷物を抱えながらヨタヨタと球場に入っていく姿が見えた。

「えっ?なんだよこの格差は…、同じ高校生なのにかわいそ過ぎるだろ」と絶句した。

「がんばれよ!応援してるぞ!」私は心の中で叫んだ。

試合開始。いきなり大量得点差。

それでも、全校応援の生徒と地元応援団の声援は一層の熱を帯びる。
とりあえず学校にあった楽器とそれぞれが自宅で作ってきた楽器代わりの小物を打ち鳴らす。

ポパイのテーマに合わせた小太鼓のテケテケ音に、たて笛とピアニカの協奏がどこか物悲しい。
握りしめたペットボトルに入った小豆のシャカシャカ乱舞に、紙のお皿に鈴を張り付けたタンバリンの鈴がちぎれ飛ぶ。
そこに加わるトライアングルのチンチン音が、どこかさみしげに響く。皆それぞれの「最強の夏」だ。
「パン・パカ・パ・パ~ン、パン・パカ・パ・パ~ン」の口ラッパの大声量で声が枯れたおじさんの音に合わせ、両手が腫れ上がらんばかりにお年寄りも手拍子連打。
応援団も死闘を尽くす。

コールドゲーム。

「応援、ありがとうございましたーッ!」応援席前に集まった選手たちの深々と頭を下げる姿に心打たれる。
「みんな、ありがとーう!」応援席からの惜しみない拍手がおくられる。
その手は皆、赤く腫れあがっていた。

こうして名もないチームの選手と全校生徒、地域住民の短い夏が終わった。

朝と同じように、豪華リムジンバスの後ろを小型マイクロバスがトコトコと走るのが見えた。

「君たちに栄光あれ!」私は心の中で叫んでいた。


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